バランスの崩れと脳の機能不全
現代社会において肩こりは国民病とも称されるほど多くの人々が抱える慢性的な問題です。
その原因は多岐にわたりますが、体のバランスの崩れが根底にあることはしばしば見過ごされがちです。
体のバランスが崩れると、特定の筋肉に過剰な負担がかかりそれが持続的な肩こりを引き起こす悪循環を生み出します。
本記事は上級者向け(専門的な話)になってしまうのですが、この複雑な関係性を「運動制御理論、固有感覚受容器と筋膜の相互作用、筋のアンバランスと姿勢の連関、そして神経細胞群選択理論(脳の可塑性)」という多角的な視点から詳細に考察します。
1 運動制御理論
脳の運動プログラムの誤学習と肩こり
運動制御理論は脳がどのようにして複雑な運動を計画し実行しているのかを解明しようとする学問分野です。
この理論の中心的な概念は脳が体の状態を常に監視しその情報に基づいて最適な運動プログラムを選択し実行するというものです。
しかし現代人の生活環境、例えば長時間同じ姿勢でのデスクワークやスマートフォンの使用や運動不足などは脳の運動プログラムに誤った学習を促す可能性があります。
具体的には、長時間同じ姿勢を続けることで、特定の筋肉が過剰に活動し他の筋肉が活動を抑制されるという状態が続きます。
このような状態が続くと脳はこれを「正常な状態」として学習し誤った運動プログラムを固定化してしまうのです。
その結果、本来であれば様々な筋肉が協調して行うべき動作が特定の筋肉に過剰な負担をかける形で行われるようになり、肩こりをはじめとする様々な身体の不調を引き起こします。
2 固有感覚受容器と筋膜の相互作用
感覚情報の歪みと肩こり
固有感覚受容器は筋肉、腱、関節などに存在する感覚受容器で、体の位置や動き、力の加わり具合などを感知し、脳に情報を伝達する役割を担っています。
一方、筋膜は全身の筋肉や臓器を包み込みそれらを繋ぎ合わせる結合組織であり体の動きを滑らかにする役割を果たすと共に、固有受容器を多く含みます。
これらの固有感覚受容器と筋膜は密接に連携しており体のバランスを維持するために非常に重要な役割を果たしています。
しかし、姿勢が悪くなるとこれらの連携が乱れ固有感覚受容器からの情報が歪んで脳に伝達されるようになります。
また筋膜も硬くなり柔軟性を失うことで筋肉の動きを阻害し体のバランスを崩す要因となります。
例えば猫背の姿勢が続くと、首や肩の筋肉が常に伸ばされたり縮んだりした状態になり、固有感覚受容器が過剰に刺激されます。
その結果、脳はこれらの筋肉が過剰に活動していると誤って認識しさらに筋肉を緊張させるという悪循環に陥ります。
また、筋膜の硬化は筋肉の柔軟性を低下させ肩甲骨の動きを制限し肩こりを悪化させる要因となります。
3 筋のアンバランスと姿勢
構造的な歪みと肩こり
筋肉は体を動かすだけでなく姿勢を維持するという重要な役割も担っています。
しかし、現代人の生活では特定の筋肉ばかり使い、他の筋肉をあまり使わないという偏った筋肉の使い方をしがちです。
このような状態が続くと筋力のバランスが崩れ姿勢が悪くなり肩こりを引き起こす要因となります。
例えばデスクワークで長時間座っていると腹筋や背筋といった体幹の筋肉が衰え代わりに首や肩の筋肉が過剰に活動するようになります。
その結果猫背の姿勢になり首や肩の筋肉に過剰な負担がかかり肩こりを引き起こします。
また筋力のアンバランスは体の構造的な歪みを引き起こし、それが肩こりを悪化させる要因となることもあります。
例えば骨盤が歪むと、背骨全体のバランスが崩れ、首や肩の筋肉に過剰な負担がかかることがあります。
4 神経細胞群選択理論(脳の可塑性)
誤った運動パターンの固定化と肩こり
神経細胞群選択理論は脳が経験に応じて変化する能力-すなわち脳の可塑性(かそせい‐変わり続ける事が出来る能力)に関する理論です。
この理論によれば脳は経験に応じて神経細胞のネットワークを再構築することで運動学習や記憶を形成します。
しかし誤った運動パターンを繰り返すと、脳はそれを「正しいパターン」として学習し神経細胞のネットワークを固定化してしまうことがあります。
その結果無意識のうちに誤った運動パターンを繰り返すようになり、体のバランスを崩し肩こりを引き起こす要因となります。
例えばスマートフォンを長時間下向きに見る姿勢を繰り返すと首が前に突き出しストレートネックになることがあります。
このような状態が続くと脳はそれを「正常な姿勢」として学習し首の筋肉を常に緊張させるという誤った運動パターンを固定化してしまうのです。
体のバランスを整え
肩こりを根本的に改善するために
体のバランスの崩れは肩こりの根本原因の一つです。
肩こりを根本的に改善するためには、これらの多角的な視点からアプローチし体のバランスを総合的に整える必要があります。
固有感覚受容器と筋膜の調整
適切なストレッチや筋膜リリースなどを行い固有感覚受容器の機能を回復させ筋膜の柔軟性を回復させます。
筋力バランスの改善 / 運動制御の再学習
全身の筋肉をバランスよく鍛える運動を行い、正しい運動パターンを学習し脳の運動プログラムを再構築します。
脳の可塑性を利用した姿勢改善
日常生活の中で正しい姿勢を意識し脳に正しい運動パターンを学習させます。
これらのアプローチを組み合わせることで体のバランスを根本的に整え肩こりのない快適な生活を送ることができるでしょう。
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